アトリエにて

saadi2007-01-31

彼に連れられて行った街、そこはパリの流行の発信地。
つまり世界の流行の発信地ということになる。
娼婦も立っているし、うっかり油断すると犬の落し物を踏みそうになるし、
美しいとはとても言い難い街並みなのである。
卸業者ばかりの建物なので、お洒落なディスプレーなどは見られない。
うちではこれだけ扱ってるよ〜みたいな商品だけが無造作に並べたり重ねたりして置いてあるだけ。
パリコレやプレタポルテの際に、世界中からバイヤーたちがこの街に集まる。彼らの行動はとても地味だ。
あの華やかな舞台からは想像も出来ない。
アトリエなどもあるので、トップモデルがさり気無く建物から出て来ることもある。
この街で見た様々なものが、現在世界中の最新マスメディアで取り上げられ始めている。


そこに彼はアトリエを持っている。
パリの街中で暖炉が使えるところがまだあるなんて…ちょっと驚いた。
暖炉に薪をくべる彼の後姿を見ていると、昔のことを思い出す。
アルルの古い別荘でのことだ。近代的な暖房の無い別荘だった。
あの時も彼は暖炉に薪をくべて、寒そうに両手を擦りながら、私の方に振り返って笑った。
ジーンズにザックリと編んだアランセーター姿の彼が重なる。
彼がクローゼットの中から何枚も出して来た少し黴臭い毛布に包まって寝た。
次の朝、目を覚ますとすぐ目の前に彼の大きな目がじっと私を見ていた。


アトリエの窓から裏庭の大きな木が見える。
何の木だろう。強い風に吹かれて枝を鳴らしている。
彼が私の横に来て窓辺に並んだ。
私の髪を撫でて私を見つめる彼の目はあの時と同じ。
光が入るとambreになる彼の瞳。


静かに時間が流れる・・・